平成24年11月18日(日)紀南ツアーデザインセンターの主催で、三重県熊野市五郷町湯の谷で講師に林業家 尾中鋼冶氏(80)、三重県林業研究所主幹研究員 西井孝文氏を迎え、とっておきの熊野 山村の暮らし体験講座 その三十四『なすび選りの森へ』〜林業家、尾中さんの森作りを見る〜が開催されました。 予定していた17日はあいにくの雨、翌日の実施になり予定人数12名から少なくなり7名の参加者で行われました。 ツアーの始めから活発な質問、意見が出され、古式林業、山の話、そして尾中氏の人柄への関心が高いことが伺えました。 熊野市の山間部の里、五郷町の林業家、尾中鋼冶さんを訪ねます。尾中さんは熊野人を感じさせる佇まい、祖父の代から三代で育ててきた山を案内していただきます。この散策の目的の一つは、現代式林業と熊野の古式林業双方に触れ、収益を得ながら“山を育てる”「育林」を知っていただくことです。 尾中さんは、国土緑化推進機構の選定する平成15年「森の名手・名人100人」に選ばれています。ツアーの始めは、尾中さんが大切に保存、展示されている古い山道具(木を挽くのこや、筏のための道具など)をご説明くださり、数年前まで尾中さんご自身が行っておられた立ち皮剥ぎの写真を見せてくださいました。今はほとんど見かけない、杉皮を屋根に葺いていたころの仕事ですが、尾中さんの旧宅は今日まで杉皮を葺いてこられたため、最近まで立ち皮剥ぎをしてこられました。 集合はお昼時。三重県林業研究所主幹研究員の西井孝文さんは約20年、きのこの調査や実験を行ってこられ、県内、地域での普及に携わっておられますが、西井さんが作ってくださった茸汁と様々なきのこのご飯、天ぷらを試食させていただきながら、きのこと森の関係、地域の取組みを講義していただきます。 いよいよ、尾中さんの案内で「なすび選り」の森へ。「なすび選り」とは、大きくなったものから順に収穫するナスの様に、大きくなった木、取りどきの木から順に伐っていく、いわゆる択伐林業のこと。熊野の古式林業として尾中さんは大切な考え方をお持ちです。 「大きな木を伐って収益を得ると共に、下にある木を育てる。山を育てていく、絶えず林が林のまま続いていく。それが一つの林業の理想であると思う。」 また、皆伐と違い、残っている木があるため目を楽しませることができる、ともおっしゃいます。 道中、参加者の方からの「なすび選りによる伐採の基準は?」などの質問や、尾中さんより、木を出すルールや、伐採の仕方、手をかけないで木を育てるということなどたくさんのお話がありました。 参加者には、間伐などの林業に従事する方、木を取り扱う木工関係の方、山主の方から自然散策がお好きな方などがおられましたが、尾中さんと接するなかで途方も無い木の年月や、山と生きることについて、考え深く、スタッフも含め引き込まれていったように思います。 山の中で榊の枝を捜し、伐採すると決めた木の根もとに挿し、塩と米と酒をそなえます。帽子をとり、祝詞を唱え、お神酒を木の周りにかけるのです。 伐採する現場へは一般ではほとんど近寄ることができず、目にすることのない光景ですが、尾中さんたちは山に対しての礼儀を今でも絶やしておりません。願うのは、山への感謝と伐り出しの安全、せっかく出す木が良い値で売れますように、ということ。そして、伐る木をどのように使うかを伝えることもあるそうです。 最後に3本ほどの母樹林(種を取る木として残した良い木)を見せていただき、ツアーが締めくくられました。 皆様からの参加しての感想です。 「仕事で間伐をしているが、今日見せてもらい、考えることがあった。」 「世の中は皆伐が主流に思うがなすび選りがもっと増えてほしく、残念に思う。」 「国を挙げて間伐する、地域で木育することが大切ではないか。」 「本当に歩きやすくて、本当に美しい森。だんだん崩壊する山が増える中で、本当の山作りが見える。」 「尾中さんの木に対する愛情が伝わってきた。」 国土のほとんどを森林が占める日本。紀南地域でもその大部分が林業の山です。近年、山への従事者が少なくなり、山の経済的な問題、期待はまだまだこれからです。また、育林と自然環境の問題は、私たちの生活に影響を及ぼすことでもあります。山村の暮らし体験講座 『なすび選りの森へ』〜林業家、尾中さんの森作りを見る〜 で、楽しく散策しながら考えを巡らし、それが、山についての一つの未来へ繋がるきっかけになることを願い、尾中さん、西井さん、参加者の方々にお礼を申し上げ、講座が終了しました。
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散策のなかで、尾中さんに林業の大切な場面を見せていただくことができました。なすび選りで木を伐る前に行う神事の様子です。 |
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山の中で榊の枝を捜し、伐採すると決めた木の根もとに挿し、塩と米と酒をそなえます。帽子をとり、祝詞を唱え、お神酒を木の周りにかけるのです。 |
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