● 感 想
世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の価値や意味について、一般的な解説がなされているほか、和歌山県の熊野古道や高野参詣道を中心に、2004年の世界遺産登録時から現在に至るまでの保存活動や課題などが紹介されている。霊場と参詣道の成り立ち、文化的景観、保全と活用が表裏一体であることなど、熊野古道についての入門書として分かりやすい内容になっている。
2016年に、熊野参詣道(中辺路、大辺路)と、高野参詣道(当初の登録時は高野町石道)について、「境界線の軽微な変更」により、世界遺産登録範囲が拡張された。
三重県内の熊野参詣道 伊勢路も、世界遺産登録されている道の部分は山中に残る峠道がほとんどであり、途切れ途切れとなっている。山中に残る峠道には、2004年の世界遺産登録後に地元住民によって掘り起こされ復元されたものもあり、それらは世界遺産登録されていない。そういった道にも往時が偲ばれるものが多いことから、伊勢路においても登録範囲の拡張が出来なかったことが残念に思われる。
第4章で東京大学教授の西村氏が述べているように、今後の追加登録が計画的に行われていくことに期待したい。
ここ数年、伊勢路を歩いていると、沿道にある空き家、廃屋、耕作放棄地がよく目に留まるようになってきた。世界遺産登録された頃のデータを取ってあるわけではないので、あくまで感覚的なものだが、確実に増えているように思える。
第2章の座談会「世界遺産 熊野古道と紀伊山地の霊場」や、第4章の熊野古道を守るために「世界遺産の保全と地域の取り組み」において、人口減少社会における熊野古道の維持保全について触れられている箇所がいくつも出てくる。(主に田辺市長の真砂氏や、和歌山県世界遺産センター長の辻林氏が述べている。)
ふるさと納税の活用や、道普請の取り組みなど、最近の新しい取り組みも紹介されている。伊勢路においても今後の大きな課題であり、三重県が取り組む「熊野古道サポーターズクラブ」の展開が注目される。
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