● 感 想
「現在の世相をとにかく少しでも改め、みんなが幸せになる世界を構築したい」という著者の思いが詰まった一冊。
文中、「自分だけ、自分のグループだけの利益を考えて、世の中全体、宇宙全体を見ない精神構造にみんながなっています。精神の解体とはまさにそのような心を反省することです。そのためには熊野古道を歩いて、大きな自然・神・仏を意識することです。」という一節があり、私も(私が理解している限りで)共感する。熊野三山を目指して苦しい思いをしながら歩き、周りの自然やその中にある人間の力が及びもしないものを感じることで、自分を見つめ直すことができると思う。
しかし、高速道路が通って便利になること、この地域が他の地域と同様の便利さや物質的豊かさを手に入れていくことが、そのことと相容れないことのように思えてならない。「熊野古道を歩いて、大きな自然・神・仏を意識」できる箇所がどれくらい残っているのだろうか。語り部さんがいくら頑張って説明しても、百聞は一見にしかず。心と体で「熊野」を感じられる場所や地域文化がどんどん失われていくような気がしてならない。
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