● 感 想
「日本一の暴れ川」と呼ばれていた熊野川だが、この本を読むことで、かつての熊野川がどんな姿をしていたのか、あるいは流域の人たちにとって川がどんな役割を果たしていたのか垣間見ることができた。流域に数多くのダムが作られた現在と、この本に登場する、直径5尺の黒木が生い茂る天然林、筏、団平船、川原町などが活躍していた時代では、その姿は大きく異なると思う。この本に登場するのは、熊野の自然の中に神様がしっかりと生きていた最後の時代なのかもしれない。
伊勢路の多くの峠道は世界遺産登録を契機として、埋もれかけていたところを掘り起こされ、その価値が地域において再認識されつつある。もちろん、単なる道としてではなく周囲の文化的景観が重要であり、道の保存だけしていればいいわけではない。この本に登場するのは、まさに熊野川において文化的景観を形成してきた重要な要素だ。かつての姿や文化をそのまま復元するのは不可能だろうが、ここに書かれている人と川の関わりは、失ってはいけないものだと思う。
熊野川を知るために、オススメの一冊。 |